ギリシャ神話の全体像|天地のはじまりからトロイア戦争までを簡単に解説

ギリシャ神話の全体像|天地のはじまりからトロイア戦争までを簡単に解説

ギリシャ神話は、星座の名前や「パニック」「ナルシシズム」といった言葉、絵画や映画、ゲームなど、現代のいろいろな場所に顔を出します。ただ、登場する神や英雄が多く、話も枝分かれしているため、全体の流れがつかみにくい神話でもあります。

この記事では、細かい異説には立ち入らず、「世界のはじまり → 神々の世代交代 → オリュンポスの神々 → 人間の誕生 → 英雄たち → トロイア戦争」という大きな流れに沿って、ギリシャ神話の全体像を簡単にまとめました。

対象読者:ギリシャ神話に興味はあるけれど、どこから手をつければよいかわからない方。

1. ギリシャ神話とは

ギリシャ神話は、古代ギリシャの人々が口伝えで受け継いできた神々と英雄の物語です。一冊の「聖典」があるわけではなく、詩人や劇作家がそれぞれ物語を書き残したため、同じ話でも作品によって筋が違うことがよくあります。

全体像を知るうえで、主な出典は次のとおりです。

作者 作品 内容
ヘシオドス 神統記 世界のはじまりと神々の系譜
ヘシオドス 仕事と日 人間の五つの時代、プロメテウスとパンドラ
ホメロス イリアス トロイア戦争の一場面(アキレウスの怒り)
ホメロス オデュッセイア 英雄オデュッセウスの10年に及ぶ帰郷の旅
アポロドーロス ビブリオテーケー(ギリシア神話) 神話全体を整理した手引き書
オウィディウス 変身物語 ローマ時代の詩人による神話集。後世の芸術に大きな影響

このほか、アイスキュロス、ソポクレス、エウリピデスといった悲劇作家の作品も、英雄や王家の物語の重要な出典になっています。

2. 世界のはじまり

ヘシオドスの『神統記』によると、世界のはじめにあったのは「カオス(混沌、空隙)」でした。そこから次の存在が生まれます。

  • ガイア:大地
  • タルタロス:大地の底にある深淵
  • エロス:愛(万物を結びつける力)
  • エレボス(暗闇)とニュクス(夜)

ガイアはひとりで天空の神ウラノスを生み、ウラノスと夫婦になって多くの子をもうけました。

子どもたち 特徴
ティタン(ティーターン)12神 クロノス、レア、オケアノスなど。次の世代の支配者になる
キュクロプス 一つ目の巨人。鍛冶の名手
ヘカトンケイル 百の腕と五十の頭をもつ巨人

3. 神々の世代交代

ギリシャ神話の前半は、「父が子を恐れて押さえつけ、子が父を倒す」という世代交代の物語です。

ウラノスからクロノスへ

ウラノスは生まれてきた子どもたちを嫌い、ガイアの体内(大地の奥)に押し込めました。苦しんだガイアは子どもたちに復讐を持ちかけ、末っ子のティタンクロノスが大鎌でウラノスを打ち倒します。このとき海に落ちたウラノスの体の一部から生まれたのが、愛と美の女神アフロディテだとされます。

クロノスからゼウスへ

支配者となったクロノスは、「お前も自分の子に倒される」という予言を恐れ、妻レアが産んだ子を次々に飲み込みました。レアは末っ子のゼウスが生まれると、産着で包んだ石をクロノスに飲ませ、ゼウスをクレタ島で密かに育てます。

産着で包んだ石をクロノスに差し出すレアを描いた古代ギリシャの壺絵

石をクロノスに渡すレア(紀元前460〜450年ごろの壺絵、メトロポリタン美術館所蔵)。画像:Wikimedia Commons(CC0)

成長したゼウスはクロノスに兄姉たちを吐き出させ、彼らと力を合わせてティタンと戦いました。これが10年続いたティタノマキア(ティタン戦争)です。ゼウスたちはキュクロプスから雷を、ヘカトンケイルから援軍を得て勝利し、敗れたティタンたちはタルタロスに閉じ込められました。

その後も、巨人族ギガスとの戦い(ギガントマキア)や怪物テュポンとの戦いがありましたが、ゼウスはこれらにも勝ち、神々の王の座を固めます。

4. オリュンポスの神々

ゼウスたちはオリュンポス山に住み、世界を分担して治めました。ゼウスが天空、ポセイドンが海、ハデスが冥界を受け持ちます。

主要な神々は「オリュンポス十二神」と呼ばれます。数え方には揺れがあり、ヘスティアの代わりにディオニュソスを入れることもあります。ハデスは冥界に住むため、ふつうは十二神に含めません。

ギリシャ名 ローマ名(英語名) 司るもの 主な象徴
ゼウス ユピテル(ジュピター) 天空、神々の王 雷、鷲
ヘラ ユノ(ジュノー) 結婚、家庭 孔雀
ポセイドン ネプトゥヌス(ネプチューン) 海、地震 三叉の矛、馬
デメテル ケレス(セレス) 農業、穀物 麦の穂
アテナ ミネルウァ(ミネルヴァ) 知恵、戦略、技芸 フクロウ、オリーブ
アポロン アポロ 音楽、予言、医術、光 竪琴、月桂樹
アルテミス ディアナ(ダイアナ) 狩猟、月、純潔 弓矢、鹿
アレス マルス(マーズ) 戦争 槍、兜
アフロディテ ウェヌス(ヴィーナス) 愛、美 鳩、バラ
ヘパイストス ウルカヌス(バルカン) 火、鍛冶 槌、金床
ヘルメス メルクリウス(マーキュリー) 旅人、商業、伝令 翼のあるサンダル、杖
ヘスティア ウェスタ(ヴェスタ) かまど、家の火 かまど
ディオニュソス バックス(バッカス) ブドウ酒、演劇 ブドウ、杖

ローマ人は自分たちの神をギリシャの神と同一視したため、同じ神にギリシャ名とローマ名の二つがあります。惑星の英語名(ジュピター、マーズ、ヴィーナスなど)はローマ名から来ています。

神々の性格

ギリシャ神話の神々は全知全能の存在ではなく、嫉妬し、恋をし、喧嘩もする、とても人間くさい存在として描かれます。特にゼウスは多くの女神や人間の女性と関係をもち、そのたびに妻ヘラの怒りを買います。この「ゼウスの浮気とヘラの嫉妬」が、多くの英雄譚のきっかけになっています。

5. 人間の誕生とプロメテウス

人間の起源については複数の話がありますが、よく知られているのはティタンの一人プロメテウスの物語です。

  • プロメテウスは人間に味方し、神々だけのものだった火を盗んで人間に与えた
  • 怒ったゼウスは、プロメテウスを山に鎖でつなぎ、毎日鷲に肝臓をついばませる罰を与えた(のちに英雄ヘラクレスが解放)
  • さらにゼウスは人間への罰として、最初の女性パンドラをつくり地上へ送った
  • パンドラが開けてはならない甕(のちに「箱」と言われる)を開けると、病や苦しみが世界に広がり、底に「希望」だけが残った

岩に縛られ鷲に襲われるプロメテウスを描いた絵画

ルーベンスとスナイデルス『縛られたプロメテウス』(1611〜1618年ごろ、フィラデルフィア美術館所蔵)。画像:Wikimedia Commons(パブリックドメイン)

ヘシオドスは人類の歴史を、だんだん悪くなっていく五つの時代として語っています。

時代 特徴
黄金の時代 争いも苦労もない理想の時代
銀の時代 愚かで神を敬わない人々の時代
青銅の時代 戦いを好む荒々しい人々の時代
英雄の時代 トロイア戦争などで活躍した英雄たちの時代
鉄の時代 労働と苦しみに満ちた現在の時代

また、人間の堕落に怒ったゼウスが大洪水を起こし、プロメテウスの息子デウカリオンと妻ピュラだけが生き残って人類を再生させた、という洪水神話もあります。

6. 英雄たちの物語

神と人間のあいだに生まれた者や、神の加護を受けた人間が活躍するのが「英雄の時代」です。代表的な英雄を挙げます。

英雄 主な功績
ペルセウス 見た者を石に変える怪物メドゥーサを退治し、王女アンドロメダを救う
ヘラクレス ヘラの憎しみを受けながら「12の功業」(ネメアのライオン退治など)を成し遂げる
テセウス クレタ島の迷宮で怪物ミノタウロスを倒す。王女アリアドネの糸で脱出
イアソン 50人の勇士とアルゴー船で旅立ち、金の羊毛を手に入れる
オイディプス スフィンクスの謎を解くが、知らずに父を殺し母と結婚していた悲劇の王
オルフェウス 竪琴の名手。亡き妻を冥界から連れ戻そうとするが、振り返って失う

英雄の物語は、勇敢な冒険だけでなく、栄光のあとに悲劇的な最期を迎えるものが多いのも特徴です。

メドゥーサの首を掲げるペルセウスのブロンズ像

チェッリーニ『メドゥーサの首を持つペルセウス』(1545〜1554年、フィレンツェ、ロッジア・デイ・ランツィ)。写真:Jebulon/Wikimedia Commons(CC0)

7. トロイア戦争とその後

英雄の時代の最後を飾るのがトロイア戦争です。

戦争のきっかけ

  1. 英雄ペレウスと女神テティスの結婚式に、争いの女神エリスだけが招かれなかった
  2. 怒ったエリスは「最も美しい女神へ」と書かれた黄金のリンゴを投げ込んだ
  3. ヘラ、アテナ、アフロディテが争い、トロイアの王子パリスが審判を任された(パリスの審判)
  4. 「最も美しい女を与える」と約束したアフロディテをパリスが選び、スパルタ王妃ヘレネをトロイアへ連れ去った
  5. ヘレネを取り戻すため、ギリシャ軍がトロイアへ攻め込んだ

三人の女神とリンゴを手にしたパリスを描いた絵画

ルーベンス『パリスの審判』(1632〜1635年ごろ、ロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵)。画像:Wikimedia Commons(パブリックドメイン)

10年の戦い

戦争は10年続き、ギリシャ側のアキレウス、トロイア側のヘクトルなど多くの英雄が戦いました。神々もそれぞれひいきの側について介入します。最後は知将オデュッセウスの策による「トロイアの木馬」でギリシャ軍が城内に入り込み、トロイアは陥落しました。

ちなみに「アキレス腱」という言葉は、かかと以外は不死身だったアキレウスが、かかとを矢で射られて倒れたという伝説に由来します。

その後の物語

  • オデュッセイア:オデュッセウスが海神ポセイドンの怒りを買い、一つ目巨人や魔女キルケ、セイレーンなどの試練を経て、10年かけて故郷イタケへ帰る
  • アガメムノン一家の悲劇:ギリシャ軍の総大将アガメムノンが帰国後に妻に殺され、息子オレステスが復讐する。悲劇作品の題材として有名

トロイア戦争の物語をもって、神々が人間の世界に直接かかわる神話の時代はおおむね幕を閉じます。

8. 冥界と季節の神話

ギリシャ神話では、死者の魂は冥界の王ハデスが治める地下の世界へ行くとされます。冥界に関する神話で特に有名なのが、季節の起源を語るペルセポネの物語です。

  • 豊穣の女神デメテルの娘ペルセポネが、ハデスにさらわれて冥界の妃となる
  • 悲しんだデメテルが仕事を放棄したため、地上の作物が育たなくなった
  • ゼウスの仲介で地上に戻れることになったが、冥界のザクロを口にしていたため、一年のうち一定期間は冥界で暮らすことになった
  • ペルセポネが冥界にいるあいだ、デメテルが悲しむので地上は冬になる

ザクロを手にしたペルセポネを描いた絵画

ロセッティ『プロセルピナ』(1874年、テート・ブリテン所蔵)。プロセルピナはペルセポネのローマ名で、手にしているのが冥界のザクロ。画像:Wikimedia Commons(パブリックドメイン)

9. 読むときのポイント

異説が多いことを前提にする

同じ神の親が作品によって違ったり、英雄の最期が複数伝わっていたりします。「どれが正しいか」ではなく、「この作品ではこう語られている」と受け止めると混乱しにくくなります。

ギリシャ名とローマ名に注意する

絵画のタイトルや翻訳書では、ゼウスが「ユピテル(ジュピター)」、アフロディテが「ヴィーナス」と書かれていることがあります。上の十二神の表と対応させながら読むと便利です。

現代に残る言葉から入る

ギリシャ神話に由来する言葉は身近にたくさんあります。

言葉 由来
パニック 牧神パンが人々に起こす突然の恐怖
エコー 声だけになってしまったニンフのエコー
ナルシシズム 水面に映る自分に恋した美少年ナルキッソス
アキレス腱 英雄アキレウスの唯一の弱点
パンドラの箱 開けてはならない災いの甕
オケアノス(オーシャン) 世界を取り巻く大河の神

入門書から読む

原典をいきなり読むのは大変なので、まずは子ども向けや入門向けの神話集で全体の流れをつかみ、気になった話を『イリアス』『オデュッセイア』や悲劇作品で読む、という順番がおすすめです。

まとめ

  • ギリシャ神話は「カオス → ウラノス → クロノス → ゼウス」という世代交代で神々の秩序ができあがる
  • ゼウスを中心とするオリュンポス十二神が世界を治め、人間味あふれる物語を繰り広げる
  • プロメテウスの火とパンドラの物語が、人間の苦しみと希望の起源を語る
  • ペルセウス、ヘラクレス、テセウスなどの英雄譚を経て、トロイア戦争で神話の時代はクライマックスを迎える
  • 異説が多いこと、ギリシャ名とローマ名があることを知っておくと読みやすくなる

全体の流れが頭に入っていれば、個々の神話や、それを題材にした絵画・小説・映画もぐっと楽しみやすくなります。気になった神や英雄から、少しずつ読み進めてみてください。

アイキャッチ画像:オリュンポス山の最高峰ミティカス(Stolbovsky/CC BY-SA 3.0/Wikimedia Commons)