アガサ・クリスティー作品一覧|長編・短編集・戯曲を発表順に整理
「ミステリーの女王」と呼ばれるアガサ・クリスティー(1890〜1976)は、半世紀以上にわたって長編66作、メアリ・ウェストマコット名義の普通小説6作、多数の短編集と戯曲を書きました。作品数が多いうえ、探偵ごとにシリーズが分かれているので、どこから読めばよいか迷う方も多いと思います。
この記事では、長編を発表順に一覧にし、探偵ごとの作品数、短編集、戯曲、はじめて読む方へのおすすめをまとめました。邦題は早川書房「クリスティー文庫」のものに合わせています。
対象読者:これからクリスティーを読み始める方、読んだ作品を整理したい方。
主な探偵とシリーズ
クリスティーの作品は、登場する探偵で大きく分けられます。
| 探偵 | 特徴 | 長編数 |
|---|---|---|
| エルキュール・ポアロ | ベルギー出身の元警察官。「灰色の脳細胞」で推理する | 33 |
| ミス・マープル | セント・メアリ・ミード村に住む老婦人。村の人間観察から真相を見抜く | 12 |
| トミー&タペンス | 冒険好きな夫婦探偵。作中で一緒に年を重ねていく | 4 |
| バトル警視 | スコットランド・ヤードの寡黙な警視 | 5(他探偵との共演を含む) |
| ノンシリーズ | 『そして誰もいなくなった』など、決まった探偵が出ない作品(『忘られぬ死』のレイス大佐ものを含む) | 13 |
バトル警視は『ひらいたトランプ』でポアロと共演しているため、数え方によって作品数が前後します。
長編ミステリー一覧(発表順)
年は英国(一部は米国)での初出年です。
1920年代
| 年 | 邦題 | 原題 | 探偵 |
|---|---|---|---|
| 1920 | スタイルズ荘の怪事件 | The Mysterious Affair at Styles | ポアロ |
| 1922 | 秘密機関 | The Secret Adversary | トミー&タペンス |
| 1923 | ゴルフ場殺人事件 | Murder on the Links | ポアロ |
| 1924 | 茶色の服を着た男 | The Man in the Brown Suit | ノンシリーズ |
| 1925 | チムニーズ館の秘密 | The Secret of Chimneys | バトル |
| 1926 | アクロイド殺し | The Murder of Roger Ackroyd | ポアロ |
| 1927 | ビッグ4 | The Big Four | ポアロ |
| 1928 | 青列車の秘密 | The Mystery of the Blue Train | ポアロ |
| 1929 | 七つの時計 | The Seven Dials Mystery | バトル |
1930年代
| 年 | 邦題 | 原題 | 探偵 |
|---|---|---|---|
| 1930 | 牧師館の殺人 | The Murder at the Vicarage | マープル |
| 1931 | シタフォードの秘密 | The Sittaford Mystery | ノンシリーズ |
| 1932 | 邪悪の家 | Peril at End House | ポアロ |
| 1933 | エッジウェア卿の死 | Lord Edgware Dies | ポアロ |
| 1934 | オリエント急行の殺人 | Murder on the Orient Express | ポアロ |
| 1934 | なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか? | Why Didn’t They Ask Evans? | ノンシリーズ |
| 1935 | 三幕の殺人 | Three Act Tragedy | ポアロ |
| 1935 | 雲をつかむ死 | Death in the Clouds | ポアロ |
| 1936 | ABC殺人事件 | The A.B.C. Murders | ポアロ |
| 1936 | メソポタミヤの殺人 | Murder in Mesopotamia | ポアロ |
| 1936 | ひらいたトランプ | Cards on the Table | ポアロ、バトル |
| 1937 | もの言えぬ証人 | Dumb Witness | ポアロ |
| 1937 | ナイルに死す | Death on the Nile | ポアロ |
| 1938 | 死との約束 | Appointment with Death | ポアロ |
| 1938 | ポアロのクリスマス | Hercule Poirot’s Christmas | ポアロ |
| 1939 | 殺人は容易だ | Murder Is Easy | バトル(終盤のみ) |
| 1939 | そして誰もいなくなった | And Then There Were None | ノンシリーズ |
1940年代
| 年 | 邦題 | 原題 | 探偵 |
|---|---|---|---|
| 1940 | 杉の柩 | Sad Cypress | ポアロ |
| 1940 | 愛国殺人 | One, Two, Buckle My Shoe | ポアロ |
| 1941 | 白昼の悪魔 | Evil Under the Sun | ポアロ |
| 1941 | NかMか | N or M? | トミー&タペンス |
| 1942 | 書斎の死体 | The Body in the Library | マープル |
| 1942 | 五匹の子豚 | Five Little Pigs | ポアロ |
| 1942 | 動く指 | The Moving Finger | マープル |
| 1944 | ゼロ時間へ | Towards Zero | バトル |
| 1944 | 死が最後にやってくる | Death Comes as the End | ノンシリーズ |
| 1945 | 忘られぬ死 | Sparkling Cyanide | レイス大佐 |
| 1946 | ホロー荘の殺人 | The Hollow | ポアロ |
| 1948 | 満潮に乗って | Taken at the Flood | ポアロ |
| 1949 | ねじれた家 | Crooked House | ノンシリーズ |
1950年代
| 年 | 邦題 | 原題 | 探偵 |
|---|---|---|---|
| 1950 | 予告殺人 | A Murder Is Announced | マープル |
| 1951 | バグダッドの秘密 | They Came to Baghdad | ノンシリーズ |
| 1952 | マギンティ夫人は死んだ | Mrs McGinty’s Dead | ポアロ |
| 1952 | 魔術の殺人 | They Do It with Mirrors | マープル |
| 1953 | 葬儀を終えて | After the Funeral | ポアロ |
| 1953 | ポケットにライ麦を | A Pocket Full of Rye | マープル |
| 1954 | 死への旅 | Destination Unknown | ノンシリーズ |
| 1955 | ヒッコリー・ロードの殺人 | Hickory Dickory Dock | ポアロ |
| 1956 | 死者のあやまち | Dead Man’s Folly | ポアロ |
| 1957 | パディントン発4時50分 | 4.50 from Paddington | マープル |
| 1958 | 無実はさいなむ | Ordeal by Innocence | ノンシリーズ |
| 1959 | 鳩のなかの猫 | Cat Among the Pigeons | ポアロ |
1960〜70年代
| 年 | 邦題 | 原題 | 探偵 |
|---|---|---|---|
| 1961 | 蒼ざめた馬 | The Pale Horse | ノンシリーズ |
| 1962 | 鏡は横にひび割れて | The Mirror Crack’d from Side to Side | マープル |
| 1963 | 複数の時計 | The Clocks | ポアロ |
| 1964 | カリブ海の秘密 | A Caribbean Mystery | マープル |
| 1965 | バートラム・ホテルにて | At Bertram’s Hotel | マープル |
| 1966 | 第三の女 | Third Girl | ポアロ |
| 1967 | 終りなき夜に生れつく | Endless Night | ノンシリーズ |
| 1968 | 親指のうずき | By the Pricking of My Thumbs | トミー&タペンス |
| 1969 | ハロウィーン・パーティ | Hallowe’en Party | ポアロ |
| 1970 | フランクフルトへの乗客 | Passenger to Frankfurt | ノンシリーズ |
| 1971 | 復讐の女神 | Nemesis | マープル |
| 1972 | 象は忘れない | Elephants Can Remember | ポアロ |
| 1973 | 運命の裏木戸 | Postern of Fate | トミー&タペンス |
| 1975 | カーテン | Curtain | ポアロ |
| 1976 | スリーピング・マーダー | Sleeping Murder | マープル |
『カーテン』と『スリーピング・マーダー』は、どちらも第二次世界大戦中に書かれ、作者の死後に発表する前提で保管されていた作品です。『カーテン』はポアロ最後の事件なので、ポアロものを一通り読んでから手に取るのがおすすめです。
メアリ・ウェストマコット名義の作品
クリスティーは別名義で、殺人の起きない普通小説を6作書いています。人の心理を描く力がよくわかる作品群です。
| 年 | 邦題 | 原題 |
|---|---|---|
| 1930 | 愛の旋律 | Giant’s Bread |
| 1934 | 未完の肖像 | Unfinished Portrait |
| 1944 | 春にして君を離れ | Absent in the Spring |
| 1948 | 暗い抱擁 | The Rose and the Yew Tree |
| 1952 | 娘は娘 | A Daughter’s a Daughter |
| 1956 | 愛の重さ | The Burden |
中でも『春にして君を離れ』は、ミステリーではないのに「怖い」と評されることが多く、日本でも人気の高い一冊です。
主な短編集
短編集は英国版・米国版・日本版で収録作が異なるものがあります。ここでは代表的なものを挙げます。
| 年 | 邦題 | 原題 | 主な探偵 |
|---|---|---|---|
| 1924 | ポアロ登場 | Poirot Investigates | ポアロ |
| 1929 | おしどり探偵 | Partners in Crime | トミー&タペンス |
| 1930 | 謎のクィン氏 | The Mysterious Mr Quin | クィン氏 |
| 1932 | 火曜クラブ | The Thirteen Problems | マープル |
| 1933 | 死の猟犬 | The Hound of Death | 怪奇・幻想もの |
| 1934 | パーカー・パイン登場 | Parker Pyne Investigates | パーカー・パイン |
| 1934 | リスタデール卿の謎 | The Listerdale Mystery | ノンシリーズ |
| 1937 | 死人の鏡 | Murder in the Mews | ポアロ |
| 1947 | ヘラクレスの冒険 | The Labours of Hercules | ポアロ |
| 1960 | クリスマス・プディングの冒険 | The Adventure of the Christmas Pudding | ポアロ、マープル |
『死の猟犬』には、戯曲や映画でも知られる「検察側の証人」の原作短編が収録されています。
主な戯曲とその他の作品
戯曲
| 年(初演) | 邦題 | 原題 |
|---|---|---|
| 1943 | そして誰もいなくなった(戯曲版) | And Then There Were None |
| 1952 | ねずみとり | The Mousetrap |
| 1953 | 検察側の証人 | Witness for the Prosecution |
| 1954 | 蜘蛛の巣 | Spider’s Web |
『ねずみとり』は1952年からロンドンで上演が続いている、世界最長のロングラン演劇として知られています。戯曲版『そして誰もいなくなった』は、小説とは結末が異なります。

『ねずみとり』を上演するロンドンのセント・マーチンズ劇場(2006年)。写真:Frank O’Dwyer/Wikimedia Commons(CC BY-SA 2.0)
自伝・紀行
| 年 | 邦題 | 原題 |
|---|---|---|
| 1946 | さあ、あなたの暮らしぶりを話して | Come, Tell Me How You Live |
| 1977 | アガサ・クリスティー自伝 | An Autobiography |
前者は考古学者の夫マックス・マローワンと過ごした中東の発掘現場の日々をつづったもので、『メソポタミヤの殺人』などの背景を知るのに役立ちます。
はじめて読む方へのおすすめ
作品数が多いので、最初の数冊は評価の定まった代表作から選ぶのが無難です。
| 目的 | おすすめ |
|---|---|
| まず1冊読むなら | そして誰もいなくなった |
| ポアロの代表作 | オリエント急行の殺人、ABC殺人事件、ナイルに死す |
| マープルの代表作 | 予告殺人、パディントン発4時50分、鏡は横にひび割れて |
| 驚きの仕掛けを味わう | アクロイド殺し |
| 人間ドラマを重視するなら | 五匹の子豚、春にして君を離れ |
読むときの注意点
- 『アクロイド殺し』『オリエント急行の殺人』『そして誰もいなくなった』は、結末を知ってしまうと面白さが大きく損なわれます。映像化作品や解説を見る前に、原作を先に読むことをおすすめします
- シリーズものは基本的にどこから読んでも楽しめますが、ポアロの『カーテン』、トミー&タペンスの『運命の裏木戸』、マープルの『スリーピング・マーダー』は最後に回すのが安心です
- 翻訳は出版社や年代によって邦題が違うことがあります(例:『アクロイド殺し』と『アクロイド殺人事件』)。古本で探すときは原題でも確認すると取り違えを防げます
まとめ
- 長編ミステリーは66作。ポアロもの33作、マープルもの12作が中心です
- ウェストマコット名義の6作は、ミステリーとは違うクリスティーの一面を知ることができます
- 短編集は版によって収録作が異なるため、原題もあわせて確認すると便利です
- はじめての1冊は『そして誰もいなくなった』、続いて探偵ごとの代表作へ進むのがおすすめです
発表順の一覧を手元に置いておくと、読んだ作品のチェックリストとしても使えます。気になる作品から気軽に手に取ってみてください。
アイキャッチ画像:1958年、アテネのアクロポリスを訪れたクリスティー(National Media Museum/著作権の制限なし/Wikimedia Commons)